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「俺、上手いよ?」
隣の席にいた彼は会計を一緒に払い、レジでもらったガムを噛みながら耳元で囁いた。
ほろ酔い気分での軽いお誘い。
どこの誰かもわからないから後腐れがなくて、たまにはいいかも知れないと思った。
それに外見が万人受けするような、かなりいい男だったし。
「…いいよ、行こっか。」
私達の一夜限りの関係は、この一言で始まった。
ライトを最弱まで落とした薄暗い部屋の中で、欲望を吐き出し互いを求め続け、精も根も尽き果てたその後は。
温かな肌が直に密着している感覚。
目の前には逞しい胸。
濃い雄の匂いがする。
程良く筋肉の付いた腕が枕代わり。
頭の上で聞こえる静かな寝息は子守歌みたいだ。
違う男と触れ合ったのは本当に久しぶりで…
少しだけ、偽りの夢に酔っていたかった。
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