告白と繋縛

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「あはは、それって多分、主任に相手されなかった奴らが腹いせに広めたんじゃないスかねぇ。」 もしそうなら、そんなくだらない悪口を吹聴するような男、私じゃなくても誰が相手にするもんですか。 「…フン、小さい男。」 何処のどいつか忘れている自分は棚上げして、面と向かって言ってやれないのが恨めしく一人毒付く。 すると、 「うわ…それ堪んねぇっス。もっぺんお願いしまっス。」 何故だか高揚した風の柴田君が、期待の眼差しで見ていた。 「…絶対に嫌。」 カミングアウトされた直後なだけに、ちょっと本気で身を引いてしまう。 「チェッ、ケチっスね。減るモンじゃあるまいし。」 「…減るわよ。」 私の中の柴田君に対する、好感度メーターが。 何だか、テレビでたまに見かける『オネエ』と呼ばれる方々とダブって見えてしまうのは…気のせいじゃないと思う。 「…で?続きは?その人の誘いを、私は何て断ったの?」 体育会系の好青年をマゾへの道に目覚めさせた位だから、当時の私は相当インパクトのある台詞を吐いたに違いない。 残念そうにしていた柴田君は、 「ああ、そうそう!それがっスね。」 突然嬉しそうに顔を綻ばせて、本筋へと戻った。 「確かそん時、研修半ばで俺達も先輩方の外回りに同行し始めた頃だったんスけど…」 社内での研修は全体的な組織図から始まり各部署の仕事の流れを簡潔に教え、その後専門担当者が一からノウハウを叩き込んでいくというもの。 私の時も例年の如く、自社支部の新入社員研修後、引き続き全営業課の指導員として数人を受け持ったのだった。 ただ、最初の配属先はあくまで仮決定。 能力や適性次第では、研修期間終了後に配属先の変更も有り得る。
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