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全く覚えていないって事は…私を誘った新人君は、もしかして営業課にもう在籍していないか移動したのか…
だんだん、嫌な予感がして来た。
「そいつがですね、ウチと取引きのあるトコの重役の箱入り息子だったらしいんス。だもんで、連れてかれた会社の中にはそいつの裏事情知ってる人らもいて…わかりますよね?」
「…研修にも仕事にもならなかった、と。」
世間では良くある話だわね、馬鹿息子可愛さに就職の世話までする親馬鹿の話しは。
独り立ちの苦労もさせないで、子供が育つ筈もない。
溺愛も度を超えると、他人に迷惑ばかりかけるロクでもないウドになる。
「そうなんスよ。俺達は蚊帳の外で、アポ相手は終始箱入り息子の機嫌取って。そんでそいつも空気の読めない奴で、調子に乗っちゃったんスよねぇ。同期の俺達だけじゃなく主任も見下してた感丸出しだったし。それで本人は気ィ良くしたのか、完全フルスロットルな勘違い野郎になっちゃって…まぁ初っ端からムカつく奴ではあったんスよ、『美人の先輩が指導員で俺達はラッキーだ』とか『何だかんだ言っても女は金と地位に弱い』とか『俺はお前らとは違う』とかって傲慢の塊みたいな奴だったし。」
「ふーん…」
現在進行形で似たような男を知ってはいるけれど、あの人は自分の立場を最大限に利用しつつ巨額の利益を生み出す優秀なビジネスマンだ。
どれだけ偉そうにしていて虫が好かなくても、そこは成果に繋がってる分だけマシというもの。
親の威光を笠に来て、社会人としてはまだまだ甘ちゃんのボンクラ息子が踏ん反り返って大口を叩くだけなら、学歴がなくとも中高卒のバイトを雇った方がどんなに役立つ事だろう。
「んで、何だかんだとあったその後日にそいつが言い出したんス。親睦を深める為に歓迎会より前に、自分らだけで先に飲みに行こうって。つっても俺ら入社して間なしで、初任給も貰ってなかったんスよ?そんなゆとりある訳ないじゃないスか。主任も用事あるって断ってたし、まぁ今回はお流れでって方向だったんスけど…せっかく誘ってやったのにとか、プライドとかメンツがどうとかゴネ出しちまったんスよねぇそいつ。もうしつこくて面倒臭いやらウザいやら…」
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