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首を傾げ悩んでいると、
「そっスね、そこんとこ俺達も心配してたんスけど。主任が言い逃げして帰った後、あいつ顔真っ赤にして怒ってたし。でも次の日以降は至って通常業務だったっスよ?あいつ以外は。」
またもや疑問が増えてしまった。
「あいつ以外?」
「んー…暫く欠勤が続いて、そのままドロップアウトしたんス。まぁけど一番の原因は、どうやら親父さんが失脚したらしいって話しスけどね。会社の金使い込んでたのがバレて。」
「…横領、か…」
こちとら貧乏してた時期が長かった分、その手のニュースでいつも思う事がある。
横領事件を起こす割合は大抵上役の人間が多いけれど、高給取りで生活には何ら困る筈もないのに、どうしてそこで満足出来ないものかと。
犯罪の意識が薄いのは裕福だからこそ金銭感覚が狂い、果てない欲求を満たしたくなるせいかしら?
どちらにしても、そんな自分勝手な人間の末路なんて知れたものだ。
「あいつも親父さんのコネで入社した手前…っつーより、後ろ盾に守られてやりたい放題やってた分、どのツラ下げてって事スよ。つまり退社は主任のせいとかじゃないスから…安心して下さい。」
少し黙り込んだ私を心配している柴田君。
「…それならいいんだけど…」
私が言えた義理ではないのは重々承知していても、親に振り回され巻き込まれたその男も有る意味被害者なのではないかと思う。
この子にしてこの親あり。
捻じ曲がった性格は、どう考えても育て方や環境が悪かったのだろうから。
…それにしても。
「今迄の話しだけじゃあ、私がキッカケだなんて断言出来ないわよねぇ…」
やっぱりマゾに目覚めたのは奥底に眠る気質のせいであって、遅かれ早かれ開花したんじゃないの?
傍迷惑な告白に、また溜息が漏れる。
けれど柴田君は少し前のめりに頬杖をつき、
「まだ、続きがあるんスよ。」
ニコリ、と不気味な笑みを浮かべた。
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