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落ち着くのよ…彼のペースに巻き込まれてはダメ。
そう…いつも通りに仮面を被り、私に与えられた役を演じきればいいだけだもの。
静かに深く息を吸い込み、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
あ
「柴田君…」
「はい?」
「興奮してるところ大変申し訳ないのだけれど、それは他人の空似…見間違いじゃないのかしら?」
「またまたぁ、トボけても無駄っスよ。好きな人を間違えたりしませんて。」
ウィンクを投げ、いけしゃあしゃあと恥ずかし気も無く宣う彼。
一度思いの丈を吐き出してしまえば、こんなにも開き直れるものなのか。
こちらの方が若干萎縮してしまうけど、これでも食いさがって来るのなら絶対に引いてはいけない。
「で、でもね…ただでさえ仕事で疲れてるのにわざわざ着飾って、夜の街を徘徊する趣味も暇もないわよ、私には。」
馬鹿らしい、といった風に呆れた表情を浮かべたのも束の間、
「そうスかね?あの時も物凄い急ぎ足で、スクランブル交差点の人混みガンガン突き進んでたっスけど?…まるで誰かと待ち合わせして急いでるみたいに。」
手の平サイズの石で後頭部を殴りつけられたような衝撃を受け、再度フリーズ。
…あの時も?…あの時もって言った?
戸塚さんとは長い付き合いになる分、当然呼び出された回数も三桁近いのではと思う。
そんな中もし柴田君が、毎回違うリクエストに応じていた私の装いを何度も見掛けていたのだとしたらもう…
「主任って…ゴスロリっぽいのもイケるんスねぇ。まぁ俺的には意外性から言って白地の着物姿が萌えたっス、日頃垣間見えない奥ゆかしさと清楚感が漂ってて。」
どんな言い訳も『見え透いた嘘』でしかない。
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