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その『間抜け』…柴田君の変態っぷりを思い出し複雑な心境になった。
傍迷惑な意味で慕って来る近しかった部下に対し、もうフォローする気も起きやしない。
「…柴田君のお客様は、一筋縄ではいかない女性客が多いって把握してるわよね、部長さん?」
どれもが、小さな規模の契約ではない事も。
「あー…そうだね。」
投げやりな返答に口許がピクリと引き攣る。
…こっちの気も知らないで…
柴田君の出方次第で私の居場所は無くなってしまうかも知れないのに、会社人としての勤めを果たそうとする自分がどれだけ滑稽な事か。
投げ出して楽になれるならば、とっくに逃げている。
母からも、戸塚さんからも、部長からも、柴田君からも、毎日のように降りかかる些細な困難の数々からも。
でもそうして逃げても、必ず後悔するだろう事は自分自身が良くわかっているから、救いようもない意地を張るんだ。
多分私は…足掻らい続けたいんだと思う。
例え間違った選択をして苦しもうと、最後まで貫き通す強い意志を持って。
「そうだね、じゃないわよ。真面目な話し…皆の手には余ると思わない?だけどあなたなら差し障り無く、上手にお付き合い出来るでしょう?何と言っても赴任してからの僅かな期間で、社内トップの業績を上げた男だもの。」
相手は同じ穴のムジナ…裕福な御令嬢様方が主だしね。
あわよくば、そっちに掛かりっきりになってくれれば幸いというもの。
内心嫌味を含めながら、電話口でほくそ笑む。
するとすかさず、
「その手には乗らないよ。…魂胆がミエミエ過ぎなんだよ君は。」
ムッとしたような声が返って来た。
「あら、なんの事かしら?頼りにしてるつもりだったのだけれど…」
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