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そして翌日は私の不安を他所に、何事も無く無事一日を終えた。
最初から白黒ついた事情聴取とやらはトータルで三十分にも満たず、訪れた警察の人達はどちらかと言えば上層部に繋がりを持つ御曹司に興味津々らしく、個人的な雑談の時間の方が長かったように思う。
私服警官が帰ると早速買物へ連れ出され、手料理の材料を調達する為に庶民の味方大型チェーンのスーパーへと向かった。
その際、カートを押して付き従う部長に注がれる女性陣の熱視線が半端無く、ついでに店員までもが私を品定めする迷惑極まりない棘のある視線に、二度とこのスーパーには来てやるもんかと誓いを立てて。
お昼の献立はリクエスト通りの玉子料理…素人でも簡単に出来るトロットロの親子丼と、レンジを活用した早技茶碗蒸しに決定。
汁物がないのは淋しい気がして、オマケでお吸い物も作る事になった。
勿論これらは全て、前夜にパソコンでレシピを検索済みのものばかり。
だって料理音痴だと思われたら癪だもの。
部長の為に影で努力したんじゃなくて、私のプライドが許さなかっただけ。
「あ、普通に美味い。良かった、ポイズンクッキングじゃなくて。」
「…お望みなら作って差し上げましょうか?魔女が作るようなドロドロの液体を。」
「じゃあ次はシチューに挑戦する?」
どうしてそうも自分に都合良く変換出来るのか…耳垢がたんまり溜まってるのね、きっと。
どれだけイケメンでも一皮剥けば中身の造りは皆同じ。
勝手な妄想で内心せせら嗤う。
「もし奇跡的にそんな日が来たら、今度はベトナムやフィリピン方面へ買物に行かなくちゃね。」
「どうして?」
「今度はもっと念入りに作るからよ。トカゲやイモリ、蠍の干物なんかもいるでしょう?グツグツと十日程煮込めばいいかしら?」
「…冗談を根に持つなんて、大人気ないなぁ…」
「あら、再リクエストじゃなかったの?」
「…君が腕によりをかけて作ってくれたものなら最後の一滴まで飲み干すけど。愛情ってスパイスは忘れずに、たっぷり入れておいてくれないと無理かも。」
「…残念ね。その銘柄のスパイスは、どのスーパーにも売ってないと思うわ。」
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