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私生活のみならず、身近で何度も見せつけられてきた格差社会。
イビリ、窓際、左遷のパワハラに、セクハラのおまけ付きで。
人間も知能の劣る他の生き物と何ら変わりはない。
支配するのは〝力〟。
絶対的な〝力〟の前には、皆が跪き頭を垂れる。
だから今の私も…柴田君の采配によって、先の運命が左右される非力な愚民なのだ。
そうなれば、部長との婚約解消は自然の摂理…のハズ。
軽蔑されてサヨナラならまだいい。
私の秘密を知った部長がどう出るか…色んなパターンを考えれば考える程憂鬱に呑まれそうになってしまう。
「夕飯残してたけど…もしかして調子悪い?」
片付けを終えた後、本人の宣言通り執拗な求愛はなかったけれど、助手席座りホッと一息ついた頃合いで部長は運転しながら尋ねて来た。
「…そうね、ちょっと身体が怠いかも。今回の休みはいつも以上に疲れたから。」
窓側に片肘を付き、チラリと見やって嫌味を吐くと、
「うん、それは本当にゴメンね?どうせ明日から忙しくて暫く構えなくなるから、今日の我儘は勘弁してよ。俺もエネルギーの補充は必要だからさ。」
部長は前向きにヘラリと笑った。
「補充、ねぇ…ポイズンクッキングとか言ってたクセに。」
私が無茶振りするのを見越していたような言い様に、ちょっとムカつく。
「眉間。」
「…?」
「縦皺、寄せてるよ。」
「煩い。誰のせいだと…」
「俺だけのせいじゃないでしょ、今回は。」
「……」
「何があったかはもう深く追求しない。しつこいようだけど、本当に困った事や悩み事があったら一人で抱えてないで相談して。君が悪でも何でも関係ない、世界中で俺だけは最後まで君の味方だよ。」
街灯りと対向車のヘッドライトに浮かんだ横顔は、どこか…寂しげで。
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