9827人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
「…くっさ…」
「カー香水キツい?窓開ける?」
わかっていてはぐらかす、その態度が気に食わないのよ。
「……そうじゃなくて。今迄そんな感じの歯の浮く様な台詞に、女の子達は騙されて来たんだろうなって呆れただけ。」
「ハハッ、気になるんだ。」
「なりません。」
そこはすかさず否定する。
「……ねえ、悪に加担したら身を滅ぼすのが定石だって知ってる?」
「君が戦隊ヒーローものに興味があったなんて意外だね。今度映画でも観に行こうか?親子連れに混ざって。」
「…茶化さないで。」
フッと笑った部長は、
「何が悪かは其々受け止め方の問題じゃない?全ての悪が全員にとって、本物の悪だとは限らないでしょ。鼠小僧も然り石川五右衛門も然り…ね?」
冗談めかして爽やかなウィンクを飛ばす。
それを密かに素早く避けたイメージを浮かべながら、プイと外へ顔を背けた。
「例えが古臭いのよ、若年寄り。」
「知識が豊富って言ってくれる?因みに好きなのは真田幸村と黒田官兵衛」
「聞いてないから。」
珍しく本気で忠告してあげようと思ったこっちがアホらしい。
どうでもいい無駄口を叩いている間にアパートへ到着し…
「じゃあ、ゆっくり休んで。…今日は美味しいご飯、有難う。」
「あーハイハイ、お粗末様で…」
運転席から伸びた手が、シートベルトを外しにかかった隙を突いて首の付け根を捉える。
「ちょ、…」
目を見開いたまま部長の唇が重なり、軽いリップ音が静かな車内に響いた。
「おやすみのキス位は許してよ。」
「…嘘つきね。」
「これは罪のない可愛い嘘です。…ホントはね、押し倒したいの相当我慢してるんだよ、俺。」
「そう、じゃ最後まで頑張って耐えなさい。」
最初のコメントを投稿しよう!