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あの日の出来事から、仕事に追われ忙しい最中でも『部長』としての彼以外にも、短い時間ながら『婚約者』としてプライベートで会う機会はちょっとづつ有りはした。
けれど、ホラ吹きである彼を一切責めず、その辺りは素知らぬ振りでいつも通りの役を演じ続けた。
それは勿論、後からじわじわと真綿を締めるように…なんて、陰湿な仕返しをしてやろうと考えていたからであって、親切心のつもりだなんて毛頭ない。
…つもりでいたのに…
「八尾産業から、納品予定の見積書について当初の予定と若干誤差があるとクレームが来てます!」
「わかったわ、目を通すから見積りのデータをこちらに回して。あなたはリード開発の提示案件の算出がまだでしょう?」
「はいっ、すみません!」
「主任、K.Y.Cの方から新商品のサンプルはまだかと催促が…!」
「それはデザイナーが推して山吹工業に発注が遅れたヤツね。今の状況を確認して、こちらから掛け直すわ。30分程待って貰える?」
「了解です!」
日が経つにつれ、どんどん仕事に追い詰められて、仕返しどころではなくなって来ていた。
「相川主任、お忙しいところすみませんが、光原染物屋さんからの選考ファイル、間違って私どものチームに紛れ込んでいたようなのですが…どうやら期日が明日までのものみたいで…」
「ーーいつ?」
「え、」
「いつ届いたものかって聞いてるの。」
「えっと…多分三日前、くらいだと…」
「ハァ…ねえ、どうしてもっと早くに気付かないのかしら?渡された時点で目を通しておけば、直ぐに渡せた筈よね?もしそちらの資料に埋もれたままなら、会社の信用問題に関わるわよ。貴女、責任取れるの?」
「…本当に、申し訳ありませんでした…」
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