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はじまり
季節は巡る。
息が白く残るこの季節は、桜の時期にはまだ早い。
それなのになぜだか、桜を思い出させる。
現実にはない桜の花が、風に吹かれて散っていく。
その瞬間の、美しさだけを残して、淡く、儚い桜。
それは君と重なって、儚げなその姿を映し出す。
あれからそれほど時は経っていないはずなのに、随分遠い昔のことに思えてくる。
もう、忘れてしまいほどの、昔のことに。
それは大抵心の奥に息を顰め、しかしふとした瞬間に驚くほど鮮明に蘇る。
君の、声。
「純ちゃん」
にっこりと微笑む君が、僕を呼ぶ。
僕はその声を掴むべく、歩き出す。重く感じる足を、必死に引きずって。
君の待つ、あの頃へ。
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