act.13 黒き薔薇、生誕

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車の種類もわからない。 覚えているのは車の色が紫だということだけ。 恐怖で、思い出すだけでも冷汗がしたたり落ちる。 なぜ、恐怖心を抱いているのかはわからない。 でも、本能的に感じざるを得ない、どこまでも深く沈みこんだ、常闇。 感知してしまったが故に植え付けられた、あのいいようのない恐怖心。 今でも、体が覚えている。 優子「そんなに速いんだ、その車。」 麻紀「うん・・・・ 気づいた時にはもう、私の前へ、そして、彼方へ去って行ったの・・・ 走っていて、これほど恐怖を感じたことはないよ・・・・ あの車には、闇しか感じなかった。 あっという間に、自分は飲み込まれた。 速いとかいう次元じゃない、抜かれて悔しいという次元じゃない!! 勝てない、勝てるはず、ないよ。 あいつは、あいつだけは・・・・」 武市「別格だ・・・」 優子「た、武市さん!」 そこには、表情を曇らせ、いつもの紳士感を失った、武市の姿があった。 優子「武市さんまで、その車に?」 コックリとしか頷かない。 いつものイキイキした、あの姿がなかった。 武市「久々だね、優子さん。 それに、初めましてかな、元死神の荒井さんに、朱雀の小田原さんだっけ?」 それぞれ、会釈で返す。 武市「完全に置いて行かれたよ・・・・ 後ろに迫っているのに気付いたのが、自分のテールランプと相手のフロントランプの感覚わずか数㎝のことだった。 僕の感知能力をもってしても、これほどまでに気づくのに時間がかかったんだ・・・ 気づいたときにはもう、ジ・エンド。 すでにあいつのテールランプを拝んでいたよ・・・ いや、拝む暇すらなかった。 すぐに消えたよ。 もう、あんなの見ちゃったら、やる気失せるよね・・・・・」 先読みの天才、武市でも感知不能だった。 そして、武市でも止められなかった。 その現実が、その場にいる全員を凍らせる。 麻紀でも、白虎のラインブロックの洗礼を散々に受けさせられた。 そのセンスをもってしても、というより、武市がブロックする暇もなく、あっさりとやられるなんて、思いもしなかった。 想定外、それしか頭には浮かばない。 武市「だが、おれは諦めない。 あの幻影の尻尾を掴んで引き摺り出してやる。 優子ちゃんも、見かけたらできるだけ情報を掴めるようにしてくれ。」 そう言い残して、去って行く。
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