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車の種類もわからない。
覚えているのは車の色が紫だということだけ。
恐怖で、思い出すだけでも冷汗がしたたり落ちる。
なぜ、恐怖心を抱いているのかはわからない。
でも、本能的に感じざるを得ない、どこまでも深く沈みこんだ、常闇。
感知してしまったが故に植え付けられた、あのいいようのない恐怖心。
今でも、体が覚えている。
優子「そんなに速いんだ、その車。」
麻紀「うん・・・・
気づいた時にはもう、私の前へ、そして、彼方へ去って行ったの・・・
走っていて、これほど恐怖を感じたことはないよ・・・・
あの車には、闇しか感じなかった。
あっという間に、自分は飲み込まれた。
速いとかいう次元じゃない、抜かれて悔しいという次元じゃない!!
勝てない、勝てるはず、ないよ。
あいつは、あいつだけは・・・・」
武市「別格だ・・・」
優子「た、武市さん!」
そこには、表情を曇らせ、いつもの紳士感を失った、武市の姿があった。
優子「武市さんまで、その車に?」
コックリとしか頷かない。
いつものイキイキした、あの姿がなかった。
武市「久々だね、優子さん。
それに、初めましてかな、元死神の荒井さんに、朱雀の小田原さんだっけ?」
それぞれ、会釈で返す。
武市「完全に置いて行かれたよ・・・・
後ろに迫っているのに気付いたのが、自分のテールランプと相手のフロントランプの感覚わずか数㎝のことだった。
僕の感知能力をもってしても、これほどまでに気づくのに時間がかかったんだ・・・
気づいたときにはもう、ジ・エンド。
すでにあいつのテールランプを拝んでいたよ・・・
いや、拝む暇すらなかった。
すぐに消えたよ。
もう、あんなの見ちゃったら、やる気失せるよね・・・・・」
先読みの天才、武市でも感知不能だった。
そして、武市でも止められなかった。
その現実が、その場にいる全員を凍らせる。
麻紀でも、白虎のラインブロックの洗礼を散々に受けさせられた。
そのセンスをもってしても、というより、武市がブロックする暇もなく、あっさりとやられるなんて、思いもしなかった。
想定外、それしか頭には浮かばない。
武市「だが、おれは諦めない。
あの幻影の尻尾を掴んで引き摺り出してやる。
優子ちゃんも、見かけたらできるだけ情報を掴めるようにしてくれ。」
そう言い残して、去って行く。
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