act.13 黒き薔薇、生誕

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相手は、見えない幻影。 撃墜予告も出さず、ひっそりと、忍び寄る影は、一撃の名の下に敵を堕とす。 四神とかつて謳われた武市も、麻紀もあっさりと、誰にも気づかれずに。 実態なき者をどう倒せばよいのか。 優子「どうしようか・・・」 麻紀や武市、将生と別れたあと、ひたすらそれだけを考えて湾岸線を流す。 深夜の湾岸線は、無法者の聖地。 バトルを仕掛けようと詮索する者もいれば、気ままに湾岸を流す者、今まさにバトルの最中な者もいる。 優子は、現在は湾岸を気ままに流す者の一人にあたる、はずだった。 だが、その立場は脆くも、後者に変わることとなる。 後ろから近づく気配。 この速い感じ、近い。 優子「まさか、き・・・た・・・?」 相手のハイビームが途切れ途切れに、優子のNSXに浴びせられる。 つまりは、パッシング。 これより、真夜中の決闘が始まる。 パッシング直後に相手の加速がさらに強まったのを感じた優子。 その足が徐々に、相手の推進力を試すように、右側にあるアクセルを踏みつけてゆく。 NAであるNSXは、その踏みつけられていくアクセルに対し、ダイレクトにエンジンに伝わり、さらに広がりは駆動系へ、そしてタイヤへ。タイヤへと伝わった瞬間、黒き薔薇は花びらを天へと羽ばたかせ、風を捉えたように加速してゆく。 その加速に対し、相手の車は少しずつではあるが、ジワジワと離されて行く。 だが、まだまだついて来れている。 優子「NSXに着いてくる・・・ だけど、幻影って感じがしない・・・」 ならば、踏み込むまで。 優子の足は、ついにアクセルの底までたどり着いた。 その瞬間、薔薇の香りは鮮烈な物へと変わり、NSXに宿るV-TECエンジン、C32B改が咆哮する。 さらにアスファルトを蹴飛ばし、再加速を始める。 相手も合わせて加速をはかり、NSXが作り出した空気の流れに乗ってなんとかついていこうとするが、NSXが250km/hを超えたあたりか、そこからはジリジリとまた離れていく。 ??「負けてたまっかよ、せっかく見つけた大物、こんなところで逃がしてなるものか!!」 アクセルを踏みつけるが、NSXは、彼のスピードレンジを遥かに上回り、加速していく。 それがわかっていても、引けないものは引けない。 だが・・・・ 気づいたときには手遅れだった。 エンジンから白煙が上がり、加速が終わった。
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