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夜空には青い光の環が浮かんでいる。ブルノリア、と呼ばれるその環は、このヴァルベリンでは崇拝の対象の一つだった。
ブルノリアは満月の夜にだけ消える。月は、ヴァルベリンにおいては邪悪の象徴だった。ブルノリアでさえ、満月の月の邪悪な力には敵わないのだという。
そして、満月の夜には、我らが現れる訳だ。
生まれて始めてみる地上の土地に、地中深くに国を築いたグルドゥの民の王子ホルステは驚嘆の念を抱いた。彼は、生まれてこのかた永遠に続く大地など見たことはなかった。手を伸ばせば届きそうなのに、決して届かないほどに高い天の存在を信じられなかった。
そして、暗いのに明るい碧いその色をホルステは知らなかった。その中心で白々とした光を投げ掛ける銀色の満月も、その近くに浮かぶブルノリアも、そしてそれらの美しいものを囲む星々の瞬きも、いずれもホルステがこれまで見たどの芸術よりも美しかった。
「これが大地か」
胸一杯に少し乾いた空気を吸い込み、ホルステは一人ごちた。
「全てが綺麗」
その素直な感想も、そんな感想を素直に口に出来るケミシャも美しいとホルステは思う。
「そう思うでしょ?王子様」
彼女の白金の髪がさらりと流れ、陶器を思わせる白い面差しがこちらを向いた。髪と同じ、薄い色の瞳がホルステを見つめる。
その色は、月に似ているとホルステは思った。
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