序、王の死

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「少し歩かないか」  ホルステから少し下がったところで控える三人の側近達に彼は提案した。 「若、それはなりませんぞ」  と真っ先に反対をしたのは教育係のカレドリ翁だ。その隣で、グルドゥ騎士団の団長レセイオンが頷く。  カレドリ翁は、幼い頃からホルステに帝王学に始まり、科学に至るまで様々な学問を教え、王になるに相応しい知識を与えてくれ、また適切な助言をし続けてくれたホルステが最も信頼している人物の一人だ。  レセイオンは物静かだが、優れた武人だ。ホルステによりも二回り上の男盛りだが、その性格故か未だに嫁がない。ホルステの剣の師匠であり、また良き友人でもある。 「王子が望まれるなら私はお供致します」  ケルシャがいつものようにホルステに同意をしてくれた。幼なじみの、近衛騎士団団長の美しい顔に微笑みながらもホルステは、いつからかケルシャは自分を王子としか呼ばなくなり、とても冷たくなったといつもの喪失感が胸の中に渦巻くのを感じた。  ケルシャは大人になったんだな、とホルステは思う。幼い頃の思い出はきっと、もう残っていないのだろう。 「ケルシャ殿、王子にもしもの事があったら……」 「この命に代えてお守りします」  にこりともせずケミシャがカレドリ翁を遮った。 「このまま帰ってしまっては無粋だろう?民に地上の話を聞かれたらどうるのだ?」  そこで言葉を切り、ホルステは指を天空に向けた。 「それに月が見守ってくれている」  やれやれ、とカレドリ翁は首を左右に振った。 「しかし、時間は少しですぞ?」  素直に頷いたホルステに、満足げに頷き返すと、真っ先にカレドリ翁が歩き始めた。彼もまた、地上の王国に興味があったのだ。
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