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「そうです、酒口巡査。どうも我々の説得では、彼は事件に本腰を入れてくれないのです」
「お言葉ですが、それは僕たちでも同じ事では無いかと……」
「そうでしょうか。私には彼が、特別お二人の事を、気に入っているように感じましたが」
松本の顔色が変わった。酒出が、自分を気に入っている。松本 菊乃という女として、その事実を天にも昇る気持ちで受け止めた。
彼女は、酒出に対して並々ならぬ気持ちがある。彼と組んで、事件へと望む日を待ち焦がれていたのだ。そこに来ての、柿崎の言葉であった。
もはや柿崎と酒口の会話など、少しも耳に入って来なかった。
酒出は、妻帯者である。
そして県警内でも有名になる程、妻子を大事にする愛妻家。そのような相手に想いを寄せるなど、道徳的に反する事なのかもしれない。
だが、松本は考える。
想いを寄せるだけならば、それは単なる片想いである。
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