国護獣・ネイラ

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王の間は窓から入る日差しで、 明るく照らされている。 だが、その明るさとは対象的に、 室内には暗く、重々しい雰囲気が漂っていた。 その空気の中心には、 大勢の臣下に囲まれている、少年と少女がいる。 少年は優しい眼差しで少女を見つめ、頬を撫でた。 「ネイ、僕はそろそろ行かないと…… ……僕は、君に出会えて良かった。 君だけがいつも僕の本当の気持ちに気付いてくれた。 僕でさえも見放していた僕の心に…… だから君には生きていてほしい。 生きて、幸せになってほしい」 少女は泣きそうになった。 きっと今の自分の顔は、 悲しみと怒りでひどい有り様だろう。 (何故?何故妾に助けを求めぬ?) 少女は心を占める感情に耐え、 少年の少し赤みがかった茶色い瞳を見つめ返した。 「それは妾も同じじゃ。 見る物全てに色があると、 生きることに意味があると、 妾に教えてくれたのはそなたじゃ! 妾は……そなたにこそ、 生きていてほしいのじゃぞ……なのに、 そなたは……」 少女はそれ以上を口にすることができなかった。 分かっていたのだ。 本当は心の底で、 自分が好きになったこの少年は、 決してこの国と民を裏切りはしないと……。 少年は少しだけ悲しそうな顔をしたが、 すぐに明るく微笑んだ。 「今、君にこんなことを言うのは…… 酷かもしれないけど、 最期に……君の笑った顔が見たい」 少女は自分の目に、 涙が溜まっていくのを感じた。 視界がぼやけ、今にも涙が頬をつたいそうだが、目を閉じそれを防ぐ。 臣下が何人かざわめき始め、少年を急かす声が聞こえる。 (早くせねば……) 少女は必死に感情を静めようとした。 だが焦りと胸が詰まる思いから、なかなか抑えることができない。
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