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僕と彼女が出会った場所は、驚くことに僕の住んでいるアパートの前なんだ。
正確には駐車場に立っている、一本の桜の木の下。
こんな風に言うとロマンチックに思えるかもしれないけど、実際は雰囲気の欠片もなかったよ。
時期は五月の始め。ちょうどゴールデンウィークの真っ最中。
僕の住んでいる街では桜前線はとっくに過ぎた後だったね。
まあ、この年は桜前線なんて関係なかったんだけども。
僕らのアパートの桜も例に漏れず、枯れ始めていたんだ。
毎年花見の時期になると、住人たちで集まってどんちゃん騒ぎをしていたから、みんな悲しんでいた。
俺たちで桜を守ろう、なんて提案もあったんだよ。
でも、それは却下された。
理由は簡単。救う方法が見つからなかったんだ。
この頃、日本では各地で桜を咲かせる研究や、枯れさせないようにする活動が盛んだったんだけど、どういうわけか、ことごとく失敗していった。
現代の科学の力をもってしても、桜の消失は止められなかったんだ。
専門家が頑張っても無理なことを、僕らがなんとかできるはずもない。
結局、僕らの集まりは解散したよ。
僕が彼女に会ったのはちょうどその頃だったね。
彼女を見たときは、そりゃ驚いたよ。
なんていったって、髪の色がピンクだったんだから。
彼女はその腰に届くくらいの長髪をピンク色に染めていたんだ。いや、ここはあえて桜色と言うべきかな。
ピンクの髪なんて、コスプレ画像くらいでしか見たことがない僕は、しばらく呆然としていたと思うよ。
口をポカンと開けた姿は、きっと彼女には、そうとうアホらしく見えただろうね。
だから、彼女から話しかけられたとき、僕は本当に驚いた。
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