不幸中の幸い

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メールアドレスも電話番号も、公私混同してしまうのがイヤだけれど、2台持つのも面倒だから、やっぱりその方がいいのかな。 取材をした後に、メールをもらうのは時々あったことだけれど、いつも挨拶で終わっていた。 『取材、ありがとうございました。』 『こちらこそ、ありがとうございました。』 『発売が楽しみです。またお店に来て下さいね。』 『プライベートでも利用させていただきますね。』 大抵の場合、これでメールは終わる。 仕事上のおつきあいの、社交辞令メール、という感じだ。 和人からのメールも、雑誌の発売を楽しみにしているという内容だったので、 『ありがとうございます。一生懸命、書かせていただきます!』 と返信した。 でも、和人は違った。 私に、いろんな質問を投げかけてきた。 『編集の仕事って、いつからやっているんですか?』 『今の仕事は子供を産んでからだけど、独身の時も長くやっていましたよ。』 『へぇ~、そうなんですね。学校で、そういう勉強したんですか?』 『大学で、マスコミの勉強をしていましたよ。』 『マスコミって響き、かっこいいっすよね!』 『そうですか? スポーツクラブのインストラクターだって、かっこいいじゃないですか。』 まるで、普通に会って会話をしているかのように、メールが続いた。 誰かに用があるとき以外は、メールなんて、こんなにしたことなかったのに。 そう思いながらも、ついつい和人からのメールに返信してしまう自分がいた。 夜、子供達を寝かせてから、会社で終わらなかった原稿を書こうとパソコンを開いた。 その時も、途切れ途切れではあるけれど、和人とのメールは続いていた。 さすがに原稿を書く時は集中したかったので、メールを返信しなかったら、 『寝ちゃいましたか?』 と、和人からメールが来た。 半分あきれて、半分笑ってしまった。 かまってほしいのかな。 和人が、かわいく思えた。 『ごめんね、原稿書かなきゃならないから、集中したいの。』 『そうだったんだ、ごめん。じゃあ、おやすみだね。』 『うん、おやすみ。』 メールの回数が増えるにつれて、私も和人も敬語を使わなくなっていた。 私は、真夏と美波と3人でアパートに住んでいて、仕事に家事に育児に、手いっぱいだった。
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