不幸中の幸い

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慌しい毎日の中で、これから私1人で、子供達の面倒を見ていかなくてはならない、強烈なプレッシャーと孤独が襲ってきていた。 そんな時に和人とメールをすると、ほっとする時間があるのが嬉しかった。 ただ、恋愛に発展することはなかったし、私もそれを期待していなかった。 毎朝、和人の『おはよう』というメールから、1日が始まっていた。 メールの来ない日は、なかった。 私が、仕事や育児に忙しすぎて返信しないと、 『大丈夫? 倒れていない?』 と、気遣うメールをくれた。 『俺とこんなにメールしていて、だんなさんは大丈夫なの?』 『夫とは、別居しているの。離婚に向けて協議しているところなんだ。』 『そうなんだ~。大変だね。』 『うん、なかなか離婚の話が進まなくて、結構きついのよね。』 『俺が支えになれればいいな。力にはなれないかもしれないけど。』 正直いって、このメールが来た時は嬉しかった。 だけど、平静を装って返信した。 『ありがとう。まぁ、前に進むしかないからね。』 和人の存在は、十分に私を支えていた。 気にかけてくれている人がいるというのは、なんとも嬉しいことで。 でも、この和人と恋愛するなんて、想像もつかなかった。 あの、東日本大震災が起こった日。 和人と知り合ってから、7ヶ月が経っていた。 毎日、何回も続くメール。 だけど、和人が働いているスポーツクラブへ取材に行った日以来、私は和人と会っていなかった。 大きな地震が来て、みんな自分の事で精一杯だったあの日。 私に、『大丈夫?』とメールをくれたのは、和人だけだった。 そして、何時間もかけて、私を迎えに来てくれた。 そのことで、私は、和人を見る目が変わってしまった。 10歳も年下の29歳の和人に、少しだけ、期待するようになってしまった。 でも、私はまだ離婚できていない。 積極的になれるはずがなかった。 東日本大震災の日。 ラーメンを食べに連れて行ってくれた和人は、私の家の前まで送ってくれた。 「本当に、どうもありがとうね。」 車を降りる前に、私は和人に言った。 「おぅ。」 それだけ言って、和人は微笑んだ。 メールはマメなのに、和人は会うと、あまり喋らない。 でも、だからこそ、一緒にいてなんだか落ち着けるような気がしていた。 夜中、1時過ぎ。 私は自宅玄関のドアを、そっと開けた。
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