恋する気持ち

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私の会社は、昼食の時間が特に決まっていない。 手があいた時にとる感じで、お弁当を買いに行ったり、食べに行ったり、みんなそれぞれの時間を過ごしている。 私は生活費がギリギリだから、お弁当は毎日自分で作っている。 夫から、お金が送られてくることがなかったため、私のお給料だけで、子供と3人で生活していかなくてはならないからだ。 昼食の時間は、会社の目の前にある駐車場の、自分の車へ行っている。 トランクを開けて座る。 トランクのドアは大きくて、日よけにぴったりだ。 だんだん暖かくなってきて、外でのお昼も気持ちよくなってきた。 きれいな青い空を見上げ、時々吹く風に当たりながら、ぼーっとしてお弁当を食べる。 貴重な息抜きの時間。 私がここで昼食を食べていると、50%くらいの確率で、「お疲れ~」と言いながら、隣の車のトランクを開ける男がいる。 高田毅(たかだ つよし)。 私の高校時代の同級生で、この会社の総務に勤めている。 私はそれを知らなくて、この会社に応募したのだった。 高校時代は結構仲が良くて、何人かで一緒につるんで海へ行ったり、花火をしたりしていたけれど、みんなが結婚していくたびに、疎遠になっていった。 私の学生時代は、携帯電話の存在がなかったため、誰がどこへ引っ越したとか、結婚したらしいとかいう話は、仲間でない限り、同窓会名簿で見るくらいだった。 その同窓会名簿も、かなり前に姿を消し、更新されなくなっていた。 高田は早くに結婚したため、連絡が取りづらく、仲間と何年も話していない状態が続いていた。 だから、面接でこの会社に来た時に、お互い顔を合わせて、びっくりしてしまった。 「高田の同級生なら、大丈夫かも」という安心感が、採用の裏にあったらしい。 仕事がきつくて、突然辞めてしまう、音信不通になってしまう人が後を絶たないらしい。 まぁ、私はそんなことしない。 というか、そんなことできない。 生活がかかっているのだから。 「お疲れ様。」 「うまそうだな。」 ここに来ると、高田は必ず私のお弁当を覗いてくる。 「そう? でも、あげない。」 笑いながらそう言って、私は自分のお弁当を隠した。 「おまえ、たまには俺にも作ってこいって言ってんだろ。」 「やだ~。会社でヘンな噂が立ったら困るから。」 「なんねーよ。誰も見てねーし。」 「意外と見ているんだよ、暇な人たちが。」
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