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そう言いながら会社のビルの窓を見ると、何人かと目が合った。
「ほら~、噂好きがいっぱいいるんだから、気をつけないとね。奥さんの耳に入ったら、大変だよ。」
私が見る方向を高田が向くと、何人かの社員が隠れたのか、移動したのか、窓辺からいなくなった。
「平気だろ。」
バカにするように笑いながら、高田が言った。
「どうなの? 最近、奥さんとは。」
「変わんねーかな。」
高田はあきらめ気味に言った。
「そんなにダメ?」
「まぁな・・・」
うつむき加減にそう言った。
だまされないよ。
私は、だまされないからね。
高田は、高校を卒業したその年の冬に、12歳年上の女性と結婚した。
「できちゃった婚」ではなく、「勢い婚」だった。
結婚する時は、みんな勢いついているかもしれないけれど、高田は何を焦っているのか、本当にすごい勢いで結婚してしまった。
仲間はみんな心配して、結構反対した。
高田は、自分の両親の猛反対も押し切った。
高田のことを、実はずっと好きだった私は、かなりショックだった。
高田が結婚して数年経った頃、高田は私に電話をかけてきたことがあった。
「なぁ、陽子、俺が離婚したら、俺の面倒見てくれる?」
唐突にそう言われたけれど、かなり酔っているのがすぐにわかった。
「面倒? 見ないよ。」
結構あっさり言ってやった。
「なんでだよ~。俺、陽子のこと、大事にするからさ~。」
「その言葉は、奥さんに言いなよ。」
かなり冷たく言ってみた。
私は頭にきていた。
高田のことがずっと好きだったのに。
今になって、そんなこと言うなんて。
みんなとも仲間でいたいから、関係を壊したくないから、私は好きだと言わなかったのに。
その次の年のお正月に、仲間の独身同士で集まった時、高田の奥さんに赤ちゃんが生まれたのを知った。
逆算すると、私にあの電話をしてきた頃、奥さんは妊娠4ヶ月だった。
なんだか、信じられなかった。
奥さんが妊娠しているのに、私にあんなことを言ったなんて。
あんまりうまくいっていないアピールして、口説いてみたいわけ?
私は、だまされないよ。
ふと、自分の夫のことを思い出した。
夫も、私とうまくいっていないアピールをして、女を口説いたのだろうか。
私は、夫とうまくいっていると思っていた。
それだけに、夫が浮気していたことに、すごく傷ついた。
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