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高田の奥さんだって、自分の夫が、女にあんな電話をかけていたことを知ったら、すごく傷つくと思う。
高田の奥さんのことはよく知らないけれど、傷つけたくない。
それに、結婚している人に興味ないわよ。
「さぁ、もう行かないと。」
食べ終わったお弁当箱をしまって、私は勢いよくトランクを閉めた。
「じゃあね~。」
「おう、じゃあな。」
高田に手を降り、私は編集部へ戻った。
一応、この会社に入ってからは、高田に意味深なことは言われていないから、もう大丈夫だとは思うけれど。
でもなんだか、ちょっとだけ気まずいような気がしていた。
編集部に戻って、私はパソコンとにらめっこするように、仕事をしていた。
雑然としている編集部。
電話がなったり、
携帯電話で話している人がいたり、
打ち合わせをしている人がいたり、
みんなそれぞれに動いている。
自由に動けて、自由に話せて、堅苦しくなくて。
私はそんな仕事場を気に入っている。
静かにおとなしく仕事をしなくてはならない場所なら、私は居心地が悪いと思う。
でもここは、おなかのすいた音がなったとしても、周りに聞こえないくらいの雑音はある。
パーソナリティの話に聞き入ることはないけれど、FMラジオが流れている。
音楽がかかれば、なんとなく聞いている。
それに一応、緊急速報のニュースも耳にすることができる。
午後2時近く。
私の携帯電話が震えた。
仕事中は一応バイブ設定にしているが、結構バイブの音の方が着信音より大きかったりする。
ちょっとびっくりしてバイブを止め、携帯電話をカバンから取り出した。
携帯電話の画面を見ると、和人からのメールだった。
『お昼だよ。今日は暖かいね。』
そんな感じのメールがいつも来ていた。
『お疲れ様。私はとっくにお昼終わったよ。』
特に話すこともないので、そうメールを返した。
『今度、ご飯食べに行きませんか?』
急な敬語と、急な誘いに、自分で顔がにやけたのがわかった。
そんな顔を誰にも見られなかったか、思わず周りを見た。
大丈夫そうだ。
『うん、いいよ。』
即、返信した。
あの東日本大震災の日から、2週間が経っていた。
和人とは毎日メールをしていた。
和人は、かなり気になる存在になっていたし、メールの文面からは、和人も私を気に入っていると受け取れていた。
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