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「帰る? ・・・そっか。」
「うん。」
かばんを持って立ち上がろうとすると、和人も立ち上がった。
和人は、私の空いている方の手を握った。
和人の顔を見ると、いつもより優しい顔をしていた。
「つきあってほしいんだ。」
その言葉に驚いていると、和人は私を抱き寄せた。
「・・・私まだ離婚できていないし。」
「わかっているよ。でも、ちゃんと離婚に向けて話し合いしているから、俺はいいと思うよ。」
言葉が出なかった。
離婚に向けての裁判をしていて、夫とはずっと一緒に住んでいないけれど、私はまだ戸籍上は結婚している。
うしろめたさがあった。
「陽子さんの話を聞いているから、すぐに離婚できないことも、子供がいることも知っているだろ。でも、俺はそれでもいいと思うから言っているんだよ。」
和人が、静かに言った。
抱きしめられたまま、私は静かにうなずいた。
「早く離婚できるといいね。待つからさ。」
そう言って、和人は私にキスをした。
「好きだよ。」
和人と私は、何度も唇を重ねた。
10歳も年下の和人とつきあうことになった。
私の離婚を待ってくれると言う。
子供がいても、39歳の私を好きだと言ってくれる人がいるなんて、とても幸せな気持ちになれた。
つきあい始めても、和人は毎朝「おはよう」のメールをくれて、私と和人は1日に何回もメールをしていた。
和人は、特に用がなくても、必ずメールをくれた。
会えない日は、それが安心につながっていた。
会える日の話をしている時は、それがすごく幸せな時間になっていた。
離婚がまだ成立していなかったので、堂々と外を歩くことなんてできないけれど、和人の部屋で過ごすことができたので、不便さを感じたことは特になかった。
夫との離婚を考えた時、子供もいるし、年もとってきているし、恋愛なんてできないだろうと思っていた。
でも、再婚したい気持ちはすごくあるから、相手を探さないと、とは思っていた。
それが、こんなにもすぐに手に入ってしまうなんて。
信じられない気持ちでいっぱいだった。
何歳になっても、恋愛していたいのかもしれない。
好きな人と分かち合える時間が欲しいのかもしれない。
私も、美佳も。
そして、高田も。
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