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「たまには政治の話をしようか」
……また始まった。コイツは唐突に意味不明な事を言い出す。とでも思っているのだろう。
などと僕は友人の心の声を勝手に想像しながら隣を歩く”それ”に切り出した。
「何だよ藪から棒に。俺もお前も政治の話なんてわかんないだろ」
今の首相すらあやふやなくせに。と付け足して言葉を切る。
しかし、こうは言ったものの俺は実は政治トークは嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。多分それっぽい言葉でコイツを感心させるだけの自信が俺にはあった。
「いや、たまにはこうやって政治の話とかをしてさ、俺たちの会話が耳に入った人が何となく敗北感のような物を味わってくれたらいいなって思って」
もちろん僕はそんなことを本気で思っている訳ではない。ただ単純に、この会話で漫才を成立させるための二役の内の一人を買って出ただけである。誰かがこの会話を聞いているわけでもないし別にイベントで披露する予定もない。ただ僕は何となく、そんな理由で普段通りこのような行動に出たのだった。
「話の途中でアレだけど、もうすぐ別れ道だな」
「そうだな。……あ、一つ言い忘れてたけど時間が無い! おかずの種類でご飯を食べる量は決まる。これだけは覚えておけ!」
僕は言いたいことをまとめて言い終えると返事を待たぬまま脇の道に逸れて友人と別れた。彼の図上にクエスチョンマークが浮かぶ様子は想像に難くない。
「……何だって? ……おかずの……なんて言ったんだろ。まあいいか」
あいつはわからん。相変わらず意味不明だ。
今週最後の帰り道を俺は急ぎながら、そういえばここの釣具屋潰れたな、と同列くらいの感覚で友人に評価を下した。
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