涙とてのひら

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教室には、誰もいなかったはずなのに。 いつの間にか加藤くんは、目の前に立っている。 「ごめっ……加藤くん、なん……で……」 涙がとまらなくて、うまく喋れない。 「オレ、携帯忘れてさ。取りに戻ってきたら、オレの席で里村が泣いてたから、つい」 「えっ……! あ、ごめん……」 ここ、加藤くんの席だったんだ。 気付いた私は、慌てて席を立つ。 「いいから、座れよ。まだ泣いてんじゃん」 加藤くんが私の肩を掴み、席に戻す。 「で、お前がここで泣いてるってことは、高橋となんかあった?」 さっき私をふった彼、高橋 譲(たかはし ゆずる)と加藤くんは同じクラス。 私は、二人とは違うクラスだけど、加藤くんは私と譲が付き合ってたのを知ってたみたい。 違うクラスの私がここで泣いてるんだから、だいたい察しはつく、か。 「話して。」 加藤くんが真正面に座って、じっと私の瞳を見る。 私はなんだか恥ずかしくなって、目を逸らす。 「……ふられたの。他に好きな人ができたって。……それだけ」 「はぁぁ……」 大きなため息が降ってきた。 「強がんなよ。お前、あんなに声あげて泣いてたくせに。何が『それだけ』だよ」 「だって……いきなり話せって言われても……私加藤くんと、ほとんど喋ったことない……し」 「え、そうだっけ? でもさー、自分の席でガン泣きしてる女、放って帰れないし」 それはそうなんだけど、何から話せばいいのか分からない。 「悔しいとか、悲しいとか、高橋のバカー!とか、何でも言えよ。せっかくオレが居るんだからさー。スッキリして帰れ!」 『ポンッ』と。 また、加藤くんの掌が私の頭を包む。 彼の心配そうな眼差しと掌の温もりに、私の心が解れる。 張りつめていたものが和らぎ、私は少しずつ譲のことを話し始めた。 「……譲はね、初彼だったの。半年前、譲に告白されて……」 付き合うきっかけになった出来事。 初めてのデート。 初めての喧嘩。 初めてのクリスマス。 ……譲が、初彼だった私にとっては、全てが初めてで。 新鮮でドキドキして、楽しかった。 譲のことすごく好きだったし、うまくいってると思ってた。
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