涙とてのひら

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「さ、お前もちょっと落ち着いたみたいだし、帰るかー。行ける?」 「うん」 私たちは、腰を上げて、教室を出る。 1月ということもあって、外はもう真っ暗だった。 「お前、家どこ?」 加藤くんの斜め後ろを歩きながら、彼の問いに答える。 「西山町だよ」 「遠いな。最寄駅まで送るわ」 たしか、加藤くんは大園中出身だから、私の家よりだいぶ手前の駅のはず。 「かなり遠回りになっちゃうし、いいよ」 ポンッ 「今日だけ特別」 加藤くんの大きな手。 私の髪を、優しくクシャっと撫でる。 このとき私は、 『この手を独り占めしたい。』 なんて思ってしまった――。
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