46人が本棚に入れています
本棚に追加
それにしても。
今日の加藤くんは、意外だった。
加藤敬といえば、容姿端麗・頭脳明晰。
「まさに天が二物を与えた!」って噂される有名な人。
ただ、彼はとても近寄りがたい。
その整いすぎた顔立ちが、冷たい印象を与えている。
だから目立つ存在ではあるけど、学園のアイドルって感じではない。
私は、廊下で見かける程度だけど、いつも険しい怖ーい顔して歩いてるイメージが強い。
去年の文化祭でしゃべったのは覚えてるけど、淡々としていた。
本人も「他人に興味ない」って言ってたけど、本当にそんなイメージで。
私の名前を覚えてくれてること自体、不思議だった。
頭いいから、すぐ覚えちゃうだけかな?
でも今日は。
今までの印象と全然違った。
とても気さくな感じだったし、何より優しかった。
あの『ポンッ』って頭に手を置いてくれるのは、加藤くんの癖なのかな。
彼の掌はとても温かくて、私はいつの間にか、すっかり心を開いてしまった。
あのまま一人だったら、いつ泣きやむことができただろう。
夜一人でどんなことを考えてただろう。
ひょっとしたら、私から譲を奪った犯人探しに躍起になってたかもしれない。
彼が話を聞いてくれたから、落ち着けた。
彼が「元サヤはない」ってはっきり言ってくれたから、諦めがついた。
彼が「今は知ろうとしない方がいい」って言ってくれたから、譲の好きな人を知ってしまった時の自分の醜さに気づいた。
加藤くんにお礼、言えなかったな。
明日もし会えたら、ちゃんと言おう。
そんなことを考えながら、私は眠りに就いた。
最初のコメントを投稿しよう!