失恋の夜

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それにしても。 今日の加藤くんは、意外だった。 加藤敬といえば、容姿端麗・頭脳明晰。 「まさに天が二物を与えた!」って噂される有名な人。 ただ、彼はとても近寄りがたい。 その整いすぎた顔立ちが、冷たい印象を与えている。 だから目立つ存在ではあるけど、学園のアイドルって感じではない。 私は、廊下で見かける程度だけど、いつも険しい怖ーい顔して歩いてるイメージが強い。 去年の文化祭でしゃべったのは覚えてるけど、淡々としていた。 本人も「他人に興味ない」って言ってたけど、本当にそんなイメージで。 私の名前を覚えてくれてること自体、不思議だった。 頭いいから、すぐ覚えちゃうだけかな? でも今日は。 今までの印象と全然違った。 とても気さくな感じだったし、何より優しかった。 あの『ポンッ』って頭に手を置いてくれるのは、加藤くんの癖なのかな。 彼の掌はとても温かくて、私はいつの間にか、すっかり心を開いてしまった。 あのまま一人だったら、いつ泣きやむことができただろう。 夜一人でどんなことを考えてただろう。 ひょっとしたら、私から譲を奪った犯人探しに躍起になってたかもしれない。 彼が話を聞いてくれたから、落ち着けた。 彼が「元サヤはない」ってはっきり言ってくれたから、諦めがついた。 彼が「今は知ろうとしない方がいい」って言ってくれたから、譲の好きな人を知ってしまった時の自分の醜さに気づいた。 加藤くんにお礼、言えなかったな。 明日もし会えたら、ちゃんと言おう。 そんなことを考えながら、私は眠りに就いた。
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