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「あらあらあ、御見苦しいところをお見せして申し訳ございません泥棒猫さん」
そう言葉を言い放つと、顔を歪ませた。
きっと笑っているつもりなのだろう。しかし、怖い。その表情は、走ることの出来ないウサギを目の前にした、ライオンのように凶悪だ。
「ああ、あ、ああ」
包帯で覆われているはずなのに、凶悪な視線を向けられた彼女は、全身を大きく震わせていた。
部屋には、姉さまの嘔吐したものの強烈な臭いだけでなく、鼻につく臭いがもうひとつ混ざる。
彼女は失禁していた。
彼氏に監禁されるという理解不能な極度の緊張状態に、得体の知れない姉さまという恐怖に耐え切れなかったのだ。
「あらあらまー、お手洗いでしたら、この部屋を出てすぐ右手ですのに…」
姉さまは右手で口元を隠す。
「はしたないこと」
今日一番の笑顔を浮かべた。
「まあ、平民風情には、猫ほどの躾もされていなかったのでしょう。でも、ワタクシは平民にも心が寛大ですので、許してさしあげますわ」
登場してすぐに、ゲロを吐く人に躾どうこう言われたくないだろう。
「モブ子ちゃああん」
「は、はい!」
急に呼ばれたことに驚いたのか、それとも自分が標的になったことに覚悟したのか、モブ子からも少し異臭がした。
でも大丈夫だ。うちの家庭は皆、バンバーズ着用とした勇者だからな。工業排水みたく垂れ流しの心配無用。
「このドタニシ!早く車椅子を押しなさい!こんな痴女が排泄したドグサレ空間に、この桜のように清楚で可憐なワタクシが1秒でもいられるわけないでしょ!?気づけないなんて、ほんとドタニシね!」
「すすいません!」
すぐに姉さまに駆け寄り、車椅子を押そうとする。
「何勝手にワタクシの車椅子に直に触れようとしているの!?本当に公衆便器並みに立場をわきまえなさい!」
「すすすみません!!」
理不尽な言葉には何もいえないが、それが普丸家のルールなのだ。
すぐさまに、手袋をするモブ子。
「わかればいいのよモブちゃん」
ようやく二人は、部屋を後にした。
「ねええモブちゃん、お姉ちゃんの聖水飲みたい?」
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