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無駄な時間を取り戻すためにも、僕は必死に校門に向かって走る。
下駄箱で靴をかえ、校門が見えてくると同時に腰の辺りまでの伸びた黒髪の女の子が視界に入る。
なんだろう。
僕の視界には、下校する他の生徒や、もう散りかけの桜の樹なんかが目にうつっているはずなのに、他のものが一切視界に入ってこない。
彼女だけしか見えていない。
「はあ、はあ、あ、ごめん!遅れました!待ったよね?」
息を切らし校門にたどりついた僕は両膝に手をついて何とか息を整える。
そんな僕の言葉に振り返る彼女とともに、その長い髪が揺れる。
「全然だよ?」
その首を少しかしげるしぐさ
「いこ?」
僕の手を取り歩き出す自然な動作
「えへ」
「はは」
足取りも軽く、僕らは歩き出す。
なんでか、僕もつられて笑っている。
きっと春の陽気にのせいであろう。
桜舞い散る4月の上旬の出来事だった。
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