あの頃の私は…

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彼女と待ち合わせをするときは、いつもこのカフェ『花の住む街』と決めている。 ふたりで駅前のショッピングモールで買い物をしたあと、ふたりともこの店の白とピンクを基調とした可愛らしさが気に入って立ち寄った。 店の名のとおり、テーブルひとつひとつに、季節に合った一輪挿しが置かれていて、そのとき、アタシたちのテーブルに飾られていたストックの花言葉を訊いたことをきっかけに、マスターとその奥さんとも仲良くさせてもらっている。 花言葉が<永遠の愛>だったから、アタシの恋愛とあまりにもかけ離れすぎていて、よけい覚えている。 「いらっしゃい、みっちゃん。もう、ユメちゃんたら、ずっと窓の外眺めながら、まるで恋人を待ち侘びてるようだったわよ……フフ」 「ちょっと、菜緒さん……待ち侘びてなんてないですっ」 「フフ……からかっちゃった。で、みっちゃん。注文はどうする?」 「じゃあ、ユメちゃんと同じので」 「エスプレッソね……」 「あ、待って、菜緒さん。みっちゃん待ってたらお腹空いちゃった……菜緒さんの手作りシフォンケーキ、お願い」 「あ、あたしも。菜緒さんの作るケーキ、しっとりしていてホント大好き。マスターの淹れる薫りだかいコーヒーと頂くと、また格別よね」 「ありがと。じゃあ、シフォンケーキ2個とエスプレッソね。りょうかい。ちょっと待っててね」 マスターは、菜緒さんに「エスプレッソ、お願いね」と告げられると、だまったまま頷き、コーヒーを淹れはじめる。 夫婦でお揃いにしたという桜色のエプロンも、優しそうなマスターによく似合っている。マスターはそれが恥ずかしいようで、なかなか私たちと目を合わせてくれないのだが……。
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