あの頃の私は…

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おしぼりを軽く手を拭いて、水を一口飲んで、一息つくのを待ってから、 「ところで、みっちゃん……話ってなあに?」 昨日の夜、ケータイで、ここで会う約束をするとき、彼女がもったいぶっていた話を切り出してみた。 「ん?うふふ……なんだと思う?」 「知らないわよっ、いーからもったいぶらないで話してよー」 「じつはねー、お兄ちゃんたち、結婚するのっ♪」 彼女は、首をすくめながら(くすっ)と笑った。 「ホントっ?!相手はもちろん楓さんよね?よかったぁ……てか“やっとぉ~?”って感じよね」 「そう。やっとぉ~」 「ま、オニイサマらしいって言えば、らしいけどね……楓さんも、辛抱強かったわね」 彼女のお兄さんを“オニイサマ”と呼ぶのにも、ちゃんとしたワケがある。 それは、彼女をイジメていたことを謝ろうとしたときだった。 すごく不安になっていたアタシを、加害者であるアタシを、やさしく、勇気づけてくれた。 そのときから、彼に好意を持つようになった。 そのときすでに、彼にはその“楓さん”がいたから、恋愛どうこうの話ではないけれど、尊敬に似た憧れは、今でも持ち続けている。だから、わざとらしいけど、彼を“オニイサマ”と呼ぶことにしている。 「……で?式はいつなの?」 「まだ、結婚の話が決まっただけだから……そこまでは決まってないみたい」 「そっか。じゃあ、また決まったら教えてくれる?」 「うん。それでね……お兄ちゃんたらね……」 しばらくふたりの結婚話で盛り上がったカフェを出てからは、アタシの買い物につきあってもらったり、カラオケでストレスを発散して、楽しく一日を過ごした。 彼女と別れて、自宅のマンションに戻るころには、すっかり辺りも暗くなっていた。
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