03 追憶-1

9/10
前へ
/35ページ
次へ
「はいよ」 「あ、す、すみませんっ」 妥協を許さないような、真っ直ぐな強い瞳。 触れたら、スパッと切れそうなその雰囲気が、正直、怖かった。 私はしどろもどろになりながら、怖々と彼の差し出すノートを受け取った。 「その3。すみませんじゃなくて、ありがとう」 「は……?」 「あ・り・が・と・う」 言葉の意味が分からず間抜けな声を上げる私に、彼は、口をハッキリ開けて発音してみせる。 どうやら、彼は『すみません』ではなく『ありがとう』と言って欲しいらしい。 そう、半ばパニック状態で理解した私は『ぴきん』と固まったまま、まるでコメツキバッタのように、深々とお辞儀をした。 「あ、ありがとうございますっ!」 その私の様子に笑いのツボを刺激されたのか、彼はクスクスと声を上げて笑い出した。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4325人が本棚に入れています
本棚に追加