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青年が、かすかに悔恨をその表情ににじませながら、唇を噛む。
「そうすれば、私は……」
ゆらり、と。
青年が剣を構えた。
その刹那、雲が動いた。月が再びその光をのぞかせ、少女を照らし出す。
質素なローブに身を包んだ、華奢な体格の少女。ローブについたフードを目深にかぶっているせいで、その表情は窺えない。だがその奥から、強い光を持つ、その瞳が青年を貫くように見ていた。
「――――戯言は、必要ない。殺すのならば、早くやればいい」
瞳と同じく鋭い声が、青年に突き刺さる。しかし、どこかあきらめたような無関心さを秘めた言葉の通りに、少女の脇腹は血に染まっている。
「だが……例え私がここで死のうとも、お前の思い通りには、させない」
「そう、ですか……」
舞台の上のスポットライトが切り替わるかのように、今度は青年の姿を、闇が隠した。
「残念です……魔女、よ……」
暗がりで振るわれた剣閃は、誰にも見られることなく、少女を切り裂いた。
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