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――――月のない、夜。人々がとうに寝静まった、深夜。
だが、街灯の明かりを避けるように歩く、人影があった。
引きずるような足取りに、かすかに荒い息。丸めた背中に、力なく垂らした腕。わずかに獣のようなうめき声を上げながら、その鈍重な動きに反し、瞳だけがぎょろぎょろと何かを捜し求めるようにせわしなく動いている。
その人影が、みっつ。誰の目にも留まることなく、その街――――前崎市の裏路地を、徘徊していた。
不意に、三つの影のうち、一つの影が動きを止める。数秒、何かを考えるように逡巡してから、顔を歪めた。
「……ぐ、ぐぐ……ぐ……」
そして、そののどの奥から、くぐもった声を出す。
――――それは、生者のものではない、笑い声。夜を歩む、死人の声。
その歩みが、先ほどよりも速くなる。何か目的のものを見つけたような――――そう、獣が、獲物を見つけたような。
先ほどまで落ち着きなく動き回っていた目が、一点を見つめている。
そこには、一人の少女の姿があった。
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