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空を舞う一点の光。光はだんだん大きくなり、その姿を現した。虹色の羽を持つ美しい蝶だ。
その蝶を無数の銀の糸が捕らえる。
蝶は羽をばたつかせるがその糸は切れることなく、どんどん蝶にからみついた。
そこへ糸の主が現れた。闇のような色をした蜘蛛だった。
無数についたその紅い目には蝶の姿が映っている。
「どうか見逃してください。私はまだ羽化したばかりなのです。どうか・・・」
蝶は震える声で蜘蛛に言った。
蜘蛛はしばらくの沈黙の後、口をひらいた。
「・・・すぐに食べはしない。だが逃がすことはできない。」
蝶ははらはらと涙をこぼした。
「あぁ、もっと世界を見たかった・・・たくさんの花の上を飛びたかった・・・」
心なしか羽の光もあせたように見える。
蜘蛛は蝶の嘆く姿をしばらくじっと見つめていた。
「・・・・・あなたの望みを叶えよう。」
蝶は蜘蛛がなにを言っているのか、すぐには理解できなかった。
驚いた顔で蜘蛛を見る。
「逃がしてくれるのですか?・・・」
「そうだ。ただし、私の出す条件を守れたらの話だ。」
「その・・・条件とはなんですか?」
「またここに来ると約束し、この糸をあなたの腕に付けるならば、逃がしてもいい。」
蜘蛛は蝶の前で銀色に光る糸を取り出した。
蝶は震えながらその糸を見ている。
「・・・わかりました。」
それを聞いた蜘蛛はきらきらと輝く上等の糸をつくり、蝶の腕にリボンを結ぶように、けれど取れることのないようしっかりと糸を結びつけた。
「この糸はあなたが私の獲物であることを示すもの。あなたが他の者に食われることのないように、そして私のもとに戻ってくるようにまじないがかかっている。」
蝶は腕に付けられた糸をじっと見ていた。
「約束は破ってはならない。もしやぶれば、あなたに呪いがかかるだろう。」
「呪い?それはどんな呪いですか?」
蜘蛛は答えなかった。
「“また”とはいつですか?」
無視されても蝶は聞き続けた。
蜘蛛は蝶についた糸を取り除いていく。
そしてとうとう最後の一本になったとき蜘蛛は蝶を見て言った。
「私はずっとここにいる。必ず戻ってこい。時が来たらその糸が導くだろう。」
蜘蛛がすべての糸をはずすと蝶はすかさず大空へ飛び去っていった。光はどんどん小さくなり、視界から消えた。
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