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青年は焦っていた。
リザードマンといえば一般には中級に分類される魔物であり、つまり『熟練の戦士が一対一で戦って勝てる程度の強さ』ということを示している。
にもかかわらず両者が拮抗しているのは、どういう訳だか決定打になる攻撃をしていないからだ。
第三者から見れば時間稼ぎをしているようにも見えることだろうが、彼にはそこまで考える余裕はなかったのだった。
しかし突然均衡が崩れる。
右腕を勢い良く振り下ろしたリザードマンは、大きく体勢を崩しよろめいたのだ。
すかざず青年の剣が閃き、比較的やわらかい胸に突き立てられた。
「グゲァ!!」
断末魔をあげた直後、リザードマンは一枚の鱗を残して空気に溶けるように消えた。
「キサマ! ヨクモビ・・・我ガ同胞ヲォ!」
怒りに駆られるようにもう一体のリザードマンが突撃する。しかしそこには先ほどまでの様な洗練された動きはなく、胸部への一撃で同様に鱗を残し消えた。
(ちょっと、急に弱くなりすぎよ。外から見てると不自然すぎ。Bって呼びそうになってるし)
(俺に言われても困るんだが)
(オリジナルはあんたなんだから責任はあんたにあるのよ。もう少し考えて行動しなさい。ほら、来たわよ)
トカゲが駆け出す青年に意識を集中したとき、背後で妖精の声が聞こえた。
「ソロド・ノマ・オク・パノ!」
「ナニッ!!」
慌てて祭壇の方を振り向いた時には魔法は完成しており、氷の槍が硬い鱗を貫いた。
倒れたトカゲの目に映るのは、地面に落ちて横たわる妖精のドヤ顔だった。
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