2012年 夏。

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 一式翁と孫夫婦を乗せたJR東日本所属の115系近郊形電車は、横川駅まであと2~3駅の所まで来ていた。 陸攻もくるみも、口に出さないだけでとうに気が付いている。 今自分達が乗っている電車が横川駅に到着する時間と、昭和10年のあの夏の日に若き日の祖父たちが横川駅に降り立った時間とがほぼ同じである事を。 そうでなければ陸攻もくるみも、一式翁がつい先程席を立った理由を分かりかねているに違いない。 一式翁の向かった先が、電車の軽井沢寄り先頭車なのは言うまでもなかった。 「陸攻さん。機長は皆さんに会いに行ったですね」 陸攻の傍らで微笑みながらくるみ。現在四人掛けのボックス座席に二人しか座っていないというのに、くるみは陸攻の隣から動こうとしない。 そんなくるみに対し陸攻は、春の日差しのように微笑しながら頷くのであった。
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