2012年 夏。

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 三人を乗せた115系近郊形電車が横川駅に到着すると、一式翁は孫夫婦を先に行かせ自らは横川駅ホームの突端に佇んでいた。 かつて横川機関区が存在し、碓氷峠越えに備えたED42形電気機関車達がひしめき合っていた辺りは、現在碓氷峠鉄道文化村と命名された鉄道のテーマパークとなっている。 そして、あの日確かに軽井沢方面へと伸びていた上下線の線路は、まるでトーチカのように見える堅牢なコンクリート製の車止めにより、ホームの突端の所で行き止まりとなっていた。 「…変わっちまったなあ」 ホームの突端から辺りを見回しつつ、ふと呟く一式翁。 鉄道ファンから横軽区間と呼ばれる信越本線横川~軽井沢間が、今から15年前の1997年に廃止されたことは既に知っている。 あの時両側に線路が敷かれていた島式ホーム(ホームの両側に線路が敷かれているホーム)の片側に柵が取り付けられ、その柵に沿っている敷地が駐車場となっているのはその為であった。 そして、かつて蒸機が牽引していた信越本線の列車は、同線の電化により全て電車に取って代わられている。
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