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「「あ」」
そんな間抜けな声が重なると、私ともうひとつの声の主は気恥ずかしさに苦笑した。
「この間は、どうも」
「いえ、こちらこそ」
お互いに、改めて軽くお辞儀をする。
その相手は、先日の合コンのお相手の一人だった。
しかも、私が妄想した、一番落ち着いた印象のあの男性。
だからか、なんとなく罪悪感を覚えて肩を竦める。
昼休みに入り、お弁当を買うのにやって来たのは、会社の近くのいつものコンビニ。
スーツを纏った彼も、どうやら目的は同じらしく、大きなお弁当と缶コーヒーを手に、レジに並んでいた。
こっそりとその後ろ姿を盗み見る。
……これって、チャンスなんじゃなかろうか。
こんなところでばったり会うなんて、きっとそう滅多にない。
運命とまでは言わないけれど、これは都合のいい妄想なんかじゃなく、れっきとした現実なのだから。
「会社、この近くなんですか?」
社交辞令みたいなその台詞を、頭の中でリピートして、予行演習をする。
あとは少し勇気を振り絞って、声を張るだけだ。
「あの……」
「それじゃ、お先に」
意を決した瞬間、先に会計を終えた彼は爽やかな笑顔を残して去っていってしまった。
絞り出した勇気は置き去りにされたまま、返事はおろか、笑顔すら返せなかったことに、がくりと肩を落としながらその後ろ姿を見送った。
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