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「……さま、お客様」 夢見心地でうっとりする私を呼ぶ声でハッと我に返る。 「あっ、すみません」 「お箸は御入り用ですか?」 渋い顔をして、無愛想に尋ねる店員に、「お願いします」と頷く。 にこりともせず、淡々と袋に割り箸を放り込む店員を見て、きっとその腹のうちは私に対する黒いものが渦巻いているんだろうな、と思う。 勝手に探って、想像して、まんまと凹んでしまう私は愚かだ。 「ありがとうございました」 素っ気ない声に見送られて店を後にする。 こっそり辺りを見回してみたけれど、妄想通りに都合よく、彼の姿があるはずもなかった。 だからと言って別に、こんなことで凹んだりはしない。 妄想に耽ることがいかに非生産的かを再確認して、自嘲することはあっても。 妄想は妄想でしかなくて、現実の私を救ってはくれないと知っている。 でも、この現実世界で上手に生きられない私は、妄想にすがるしかないのだ。
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