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「佳奈ちゃんは、同じサークルの後輩で。今でもたまに、仲間うちで集まって飲んだりするんだよ。でさ、いっつも聞かされるの。"大好きなりっちゃん"の話」
「……それ、聞かなくちゃダメですか」
突然、久保田さんがそう切り出すと、聞きたいような、聞きたくないような複雑な心境から、ぶっきらぼうにそう尋ねた。
「ただの独り言だよ」
「なんか、ずるい」
そう不満を漏らすと、彼はごめん、と小さく笑った。
だけど、私も、ずるい。
本当は知りたいのに、知るのが怖くて、彼のせいにしたいのだから。
知りたくないのに、彼が勝手に話してくるからと、言い訳がしたいのだ。
もしかしたら、そんな私のひねくれた厄介な心を、彼は見透かしているのかもしれない。
「それこそ片思いの時から、彼女になるまで……なってからも、佳奈ちゃんの口からいつもでるのは、"りっちゃん"の話と"サチ"って名前だった。俺は、君と会う前から、実は君の名前をよーく知ってたんだ」
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