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「2回目、ですよね?」
今回も会釈して通り過ぎて行くものだと思っていたのに、まさか声を掛けられるなんて、想像もしていなかった。
「は、はい」
予想外の展開に頭の中は真っ白で、こくこくと頷くのがやっと。
「……大丈夫?」
心配と困惑を孕んだ、彼の息遣いや声色で、自分が今、無様な姿であることを思い出す。
恥ずかしさに一気に顔が熱くなって、慌てて俯くと、「はい」とだけ素っ気なく返した。
私は、なんて馬鹿なんだろう。
せっかく心配して声を掛けてくれたのに、ありがとうの一言も言えないなんて。
「そう。なら、良いんだ。それじゃ」
私は、自分の都合よく展開していく妄想が好きだ。
だって私には、“偶然”を“運命的な再会”には変えられないから。
それはきっと、モテる人たちだけが持つ、特別な魔法みたいなものだ。
ずっと、そう思っていた。
だけど、私だって変えてみたい。
妄想じゃなく現実の、勇気を出した後にある、その続きを見てみたい。
「あ、あの……っ!」
私を通り過ぎて行く彼の背中に、精一杯振り絞った勇気を投げる。
彼は歩みを止め、ゆっくりと首をこちらにひねった。
「もし良かったら、一緒にお茶でもどうですか」
小さな勇気が、まだ見ぬ“向こう”に続きますように。
そう祈りながら、言った。
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