10/10
1947人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「2回目、ですよね?」 今回も会釈して通り過ぎて行くものだと思っていたのに、まさか声を掛けられるなんて、想像もしていなかった。 「は、はい」 予想外の展開に頭の中は真っ白で、こくこくと頷くのがやっと。 「……大丈夫?」 心配と困惑を孕んだ、彼の息遣いや声色で、自分が今、無様な姿であることを思い出す。 恥ずかしさに一気に顔が熱くなって、慌てて俯くと、「はい」とだけ素っ気なく返した。 私は、なんて馬鹿なんだろう。 せっかく心配して声を掛けてくれたのに、ありがとうの一言も言えないなんて。 「そう。なら、良いんだ。それじゃ」 私は、自分の都合よく展開していく妄想が好きだ。 だって私には、“偶然”を“運命的な再会”には変えられないから。 それはきっと、モテる人たちだけが持つ、特別な魔法みたいなものだ。 ずっと、そう思っていた。 だけど、私だって変えてみたい。 妄想じゃなく現実の、勇気を出した後にある、その続きを見てみたい。 「あ、あの……っ!」 私を通り過ぎて行く彼の背中に、精一杯振り絞った勇気を投げる。 彼は歩みを止め、ゆっくりと首をこちらにひねった。 「もし良かったら、一緒にお茶でもどうですか」 小さな勇気が、まだ見ぬ“向こう”に続きますように。 そう祈りながら、言った。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!