1947人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「彼氏ができた?」
目を丸くして尋ね返すのは、中学時代からの悪友、中村玲子だ。
黒髪のショートボブはちょっとした仕草でさらりと揺れ、一重まぶたのつり上がった目と、それによく合ったアイメイクがクールな印象を与える。
パンツスーツをかっこよく着こなして、ピンヒールで颯爽と歩く姿は、女の私でも惚れ惚れするほどに綺麗。
そんな、見るからに私とは不釣り合いの玲子だけれど、つい最近まで私と同じ部類の人間だった。
いわゆる腐女子というやつで、内容ジャンルこそ違えど、よく2人して妄想の世界に耽っていた。
校則に忠実に、スカートは膝丈。
眉より上に切り揃えた前髪。
後ろ髪は、私は2つに、玲子は1つに束ねていた。
ダサい銀ぶちの眼鏡に加えて、歯には矯正器具を付けた私と、黒ぶちの眼鏡をかけ、当時はだいぶふくよかな体つきだった玲子。
私たちは地味に、そしてひっそりと、教室の隅の方で妄想を日々の楽しみに、学生時代をやり過ごしてきた。
そんな玲子が劇的ビフォーアフターを行ったのは、大学3年の夏。
初めて恋を知り、あっさりと破れ、見返してやると誓いを立てた。
そして、その一心で行った並々ならぬ努力の結果が、目の前の彼女だ。
「祥子に?いつもの妄想じゃなく、現実話で?」
疑いの眼差しを向ける玲子に、こくこくと頷いてみせる。
疑いたくなるのももっともだと、自分でよく分かっているから、別に腹も立たない。
最初のコメントを投稿しよう!