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沖「はぁ‥はぁ‥」
男を追いかけたものの結局見失ってしまった。
なんて逃げ足の速いやつだ、と沖田は乱れた息を整えながら思った。
沖「顔も分からなかったな…」
男は最後まで編み笠を取らずに姿を消した。
声や背格好からして沖田とはさほど年齢は変わらない。
沖「また彼に会いたいな。そして次こそ刀を交えたいよ」
屯所に戻ろうと思い沖田は背を向けた。
沖「何あれ…」
振り返るとそこには数人の人影が立っていた。
大人の男や女、はたまた子供まで、性別と年齢層が広い団体だった。
全員が大量の酒でも飲んでいるかのように覚束ない足取りで歩いてくる。
咄嗟に刀を構える。直感で何か只ならぬ雰囲気を感じた。
沖「こんな夜中に大勢でどうしたのさ。それに、その手に持っているものは何‥?」
目の前の人間は全員、手に鎌や鉈を持ち、それらには赤黒い何かが付着していた。
刀に力を込めた瞬間、突如彼らが耳を劈くような奇声を発しながら突撃してきた。
沖「ぐっ…」
人間とは思えないような重い一振りに、沖田は顔を歪める。小競り合いになっていた人間を押し返し、背後に迫っていた鎌を避けたが腕に鋭い痛みが走る。
着物に赤黒い模様が広がり、腕を濡らした。
沖「さすがに少しやばいね。屯所を勝手に出てきた罰かなぁ…」
勢力的にも力の差は圧倒的だったが、沖田の目からは闘志が消えず再び刀を構える。
沖「生憎だけど、僕はまだ、死ぬわけにはいかないんだよね。それに早く帰らないと土方さんがうるさいからさ…そこ、どいてもらうよ」
すぐさま目の前の鎌を持っていた男を斬り伏せる。周りに鮮やかな鮮血が舞いそれは沖田の顔や体についた。
夜の闇に響く断末魔の叫び。
その叫びが終わらぬうちに沖田はすぐさま他の人間に斬りかかった。
三、四人ほど倒した頃から沖田は息を乱し始める。
鎌で斬られたところが激しく痛み、体が思うように動かなくなる。
戦っている間にも血は止まることなく地面へと落ち、赤い水たまりを作っていた。
彼らは相手を傷つけることに快感を感じるのか、また苦しんでいる姿を見て視覚的に興奮を感じているのか分からないが、全員が身の毛もよだつ様な満面の笑みを浮かべていた。
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