二刀流の浪人

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待つことに痺れを切らしたひとりが、沖田に刀を勢いよく振り上げる。沖田は素早く反応し刀を避けようとしたが、足が鉛のように重くその場から動けなかった。 沖「くっ…」 目の前まで迫りくるものがゆっくりと見える。 それを避ける事が出来ない沖田は死を覚悟した。 シュン あと少しで刃が体に届きそうなとき、何かが疾風のごとく顔の横を突き抜けた。 「がっ…」 人間が声もなく地面に吸い込まれるように倒れる。その胸には紅色の柄に桜の模様が描かれている刀が深々と刺さっていた。見覚えのある刀に沖田は小首をかしげる。 「おいおい、ひとり相手に何人、寄ってたかってんだよ。卑怯にもほどがあるぜ」 聞き覚えのある気だるげな声に沖田は振り返る。そこにはさっき見失った男がいた。 「その喧嘩は途中参加してもいいのか?もし金を取るなら後払いでよろしく。もちろん、金はまけてくれよな」 人が死んでいるのに、どうして喧嘩に見えるのか沖田は不思議でならなかった。 「邪魔をするなぁぁぁ!!」 女にしては太く低い声をした者が男に迫った。しかし男は避ける素振りを見せず悠々とその場に立っていた。 鉈が勢いよく振り下ろされる。だが、地面には血が流れず代わりに二つに割れた編み笠がぱさっと落ちた。 ズン… 編み笠が地面に落ちた後に人間の背から刃が突き出る。女はガクガクと全身を震わせた。 「…勇猛果敢に立ち向かってくるのは悪いことじゃねェ。だが、隙だらけだぜ」 女の体から刀が引き抜かれる。支えを失った女は地面に吸い込まれるように崩れ落ちた。 沖田はここで初めて男の顔を見た。男は海のような蒼い目をしており、そしてその顔は女のように端整な顔立ちをしていた。 「おい、にーちゃん。今俺の顔が女みたいだとか思わなかったか?」 頭で考えていたことを言い当てられ、沖田は少し驚いた。
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