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「我が家の馬車だ。」
そう言われて乗り込んだのは、ノーブルに出入りしていたものとは比べようもないほど豪華な四頭だての馬車だ。レムオンのエスコートで、中に乗り込む。絹貼りされた室内には、テーブルまで備え付けられていた。
席についても全く落ち着きを見せないジルを呆れた様子で、レムオンは見つめた。
走り始めた馬車。王城のある丘陵から貴族街へと駆け抜けていく。
「レムオン、窓開けていいか?」
「構わんが…。」
窓をあけると、ジルは身を乗り出して去り行く王城と流れて行く丘陵の景色に心奪われていた。風に揺れる金の髪。日の光に照らされ、彼女の横顔が輝いてみえる。
「綺麗だね。」
そう言って笑う彼女を前にして、不覚にも一瞬凍てついた表情(カオ)を崩してしまった自分に、レムオンは戸惑っていた。
『ただの町娘ではないか。』
心の中で、自分にそう言い聞かせる。成り行きで“妹”にしたてあげた娘だ。別に特別選んだ相手という訳では、ない。
自分にとっては、なんのへんてつもない代わり映えのしない景色を「綺麗だ。」と評する彼女。そうか、そういう見方もあるのだな…。
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