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しばらく、いや、下手をしたらもう帰って来ることも無いかもしれない私の家。死ぬつもりは全く無いが、ノーブルで一度無くしたも同然の命だ。
「兄さん、助けてもらった借りは返すよ。」
「…そんなもの、前にも言ったがお前ごときを利用した覚えもないし、貸しを作るなどというくだらん事をした覚えも無い。」
「いいんだ。私が勝手に思ってるだけだから。」
そう言うと、ジルは微笑む。侵しがたい、黄金色に輝く華やかな笑顔。こんな時にも、迷う素振りすら見せない。ノーブルで初めて会った時もそうだった。自らの命が危ないと仲間が蜂起をうながしても、ジルは反乱しない事を選んだ。反乱など起こして村の皆が皆殺しにされるくらいなら、もうじきかたがつくなら、自分の命を差し出すと。
「…ジル。」
「何?」
「持っていけ。」
レムオンは、薄紫の絹のハンカチを手渡した。リューガ家の紋章が、金糸で刺繍されている。
「必ず帰ってこい。よいな?」
「うん。行ってきます。」
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