最果ての灯

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最果ての灯

平日の朝、霧村祐毅は靴を履いて、少しだけ急ぐような動作で立ち上がると、傍らに置いた学生鞄を取り上げて早足で家の玄関を出た。いつもと変わらない日常を送るために。 「祐毅君の余命は後4カ月です」 診察室の中で両親と俺に告げられた残酷な言葉。 「う、うそでしょ、先生。冗談でしょ。後4カ月だなんて」 「……残念だが、本当のことなんだ」 その表情から嘘だと読み取ることはできなかった。 「祐毅君の病気は異核性摎筋病(いかくせいこうきんびょう)といって、神経が衰えていき、次第に体全体が衰弱してしまうものなんだ」 なんだ、そのイカ臭そうな名前は、喧嘩売っているのか。 「残念なことにこの病気は奇病でね、まだ治療法すら見つかって無いんだ。最悪の場合1カ月で死に至ることもあるが、君の場合は発見も早く、症状を遅らせる薬さえきちんと飲んでくれれば、4カ月くらいまで、もつだろうが」 言葉が出なかった。いや、感情すらも失っていた。俺の隣にいた母さんは父さんに抱きついて泣いていた。父さんは、隣にいる母さんを慰めながら、じっと先生の話を聞いていた。 「治る見込みは、ないんですか」 ずっと無言だった父さんが口を開いた。 「さっきも言ったように、稀な病気で、原因すら分かってない状態なんだ。今、私たちに出来ることは、薬を飲んで症状を遅らせることしかないんだ」 「それで、これからのことなんだが、生活は今まで通り普通に過ごしてくれて構わない。ただ、週に一回は必ず病院に来てほしい。それと、体に異変を感じた時も来てほしい。後、薬は朝昼晩忘れずに飲むこと」 そう言うと、先生は軽く会釈をし、部屋を出て行った。
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