最果ての灯

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「ははは、飛鳥は強いな。俺は駄目だよ」 「誰かを悲しませるのが辛くて、何が一番悲しまないで済むかを考えていたけど、結局は、最後は誰かを悲しませてしまう結果だった」 あの時、父さんに言われるまで、俺はそんなようなことしか考えることができなかった。自分の意思を押し殺してでも、それを貫き通しかった。 「でもそれは結局、俺が病気から逃げていたことと同じ事だったんだ。誰かを悲しませるのが怖かったんじゃなくて、自分が死ぬのが怖かったんだよ」 あの診断を受けてから、ただずっと死ぬことが怖かったのに、それを奥にしまいこんでいたんだ。 「違うよ、私だってそんなに強くないんだよ」 飛鳥が悲しそうな声で言った。 「私は、祐毅ちゃんが困るとわかっていて、付き合おうなんて言ったんだから、ただ、自己中なだけなんだよ。それに、祐毅ちゃんだって、死ぬのがわかっていたのに、ずっと笑顔でいたじゃない。私をちゃんと守ってくれた。祐毅ちゃんは、弱くなんてないんだよ」 飛鳥はそう思っているかもしれないけど、結局、俺は弱かったんだ。 「…ねえ、祐毅ちゃん。辛いんだったら、一人で耐えなくていいんだよ。私が一緒にいるから、抱え込まなくていいんだよ、祐毅ちゃん。怖いのも、辛いのも一人で耐えることなんてないんだよ。私がずっと、一緒にいるから」 初めて言われた言葉。いや、ずっと前から言われたかった言葉だったかもしれない。 飛鳥は崩れ落ちそうになる俺にしがみつき、強く抱きしめた。 俺はその体にすがるように、顔を飛鳥の体に押し付けるようにして泣いた。 「俺、一人で泣かなくていいのか。一人で怖がらなくていいのか」 「…そうだよ、私がいつだって側にいるから。離れないから。だから、泣いたっていいんだよ。祐毅ちゃん」 「俺、死にたくなんてないよ。死ぬの怖えーよ」 「私も、祐毅ちゃんと一緒にいられなくなるなんてやだよ。もっと、ずっと一緒にいたいよ」 その後も俺たちは子供のように泣いていた。二人で怖い、怖いと繰り返しながらも。 飛鳥の前では何もかも捨ててしまった。飛鳥には何も隠さなくていい。 俺の死も恐怖も一緒に感じてくれる飛鳥。 おれはまだ飛鳥といていいんだ。一緒にいていいんだ。 泣きながらも飛鳥はずっと言い続けた。 「一緒にいようよ。ずっと一緒だよ、祐毅ちゃん」 飛鳥と俺の唇が触れ合う。 神様、飛鳥を俺に巡り合わせてくれて本当にありがとう。
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